市役所の左裏手か、ならこの階段を下りて行けばいいだろう。 初めて訪れる会社に行くときに、前の日に入り下見に行くのがボクの流儀だ。少し行き過ぎたようで、激しく廻る水車が見える場所に出た。そこから引き返し、右手を見たら古い日時計が壁に掛かっているのが見えた。 |
「前会長の急逝によって、副会長の私が後任に就きました。今年の世界大会が初めてヨーロッパの外で開催されます。その場所が東京と決まっています」 「日本には未だエステティックの概念が定着して居らず、受け入れ機関として急遽日本支部がヘアサロンのリーダーを組織化して出来ました。これがその理事会のメンバーです」 英文の文書には多くの女性の名前が並び、事務方として男性の名前も出ていたが、門外漢のボクには見知った名前はなかった。 |
ニーナ・ハース女史 |
翌日もハースさんの個室で朝から缶詰状態での猛烈な特訓を受けた。 ヒフの構造図なんて見たのは初めてだ。ヒフ細胞の寿命は如何ほどかと聞かれたが、大学は商学部だし高校の理科で生物も習ったが、植物や昆虫の生態がテーマで人間の構造や生理なんて全く知らない。 |
【 ヒフの構造図 】 |
ボクが勤務していた商社とは近い場所に、その製薬会社はあったから、食事に行く店など共通の話題があった。 聞けば専務さんは、ボクと同年の生まれであった。 シデスコ開催を待つことなく、すぐにもBiuticapsの展示をやりましょうと言って下さった。 |
しかもビューテイキャップは単なるビタミンEではなく、内面から細胞段階でヒフ美容を意図した、ビタミンAやイノシトールとの相乗効果で特許も得た、グランデル社の誇るものなのだ。 これはドイツと同様に美容室の武器になる。ボクは自信を高めた。 |
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